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    「同志少女よ、敵を撃て」  逢坂冬馬 著、・・ (2023/04/30)

           早川書房 1900円(税別)


 選考委員全員が満点をつけ、満場一致で第11回アガサ・クリスティー賞に決まった「本」なのだそうです。北上次郎氏が選評の中で「全員が最高点を付けたのはアガサ・クリスティー賞史上初めてである」とコメントしたほど優れた作品だった。しかしこうも言っていて、やや長すぎることと、タイトルが平板であることが気になるが、と。

 この本、厚みが3cmもあり(長すぎる?)、読む私も大変でした。図書館の本なのですが2週間は借りていられるのですが、私の場合、あまり長く時間をかけてしまうと感動が薄れてしまうような気がして、可能な限り短時間で読むようにしています。それにしてもこの厚さの本は読破するのが大変でした。

 そんなことで、全6章からなるこの本の1章と最後の方の第5章と第6章は丁寧に読んだのですが、途中はかなり飛ばしながら読み進みましたが、それでも十分感動は得られた気がします。

 * * *  印象に残っているのは360ページ以降の部分 * * * *

 ソ連邦の英雄で確認戦果(狙撃で殺した敵)は309人、アメリカにも渡航した天才的(女性)狙撃兵、リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリチェンコの講演後の話し。この物語の主人公セラフィマが宿泊先の兵舎を訪ねての尊敬するリュドミラにこう質問した。

<質問1>
 「狙撃を続ける意味、その果てにある境地を知りたい」と。

 するとリュドミラが説明した逸話は、彼女が小学生の時に地元の工場に、ネジ作りのソ連記録を更新した熟練労働者がいた、と。その熟練工に「ネジを作るとき、どんなことを考えていますか?」と。すると工場の達人が困った顔をして答えたのは、「別に何も考えていません」「ネジ作りが何かなんて考えたこともありません、ただ作ってるだけです」だった。

 この逸話をここで話すということは、狙撃兵も、この熟練工も同じなんだ、ということを説明したかったのだろうと思った。

<質問2>
 「戦後、狙撃手はどのように生きるべき存在でしょうか」という質問だった。これに対して

 「お前も、私も、狙撃という魔術に魅了された。ネジ作りの達人がそうであったように、無心に至りその技術にのめり込んだ・・・・そして、二人の夫を失った私は、309人のフリッツ(ドイツ人の意味)を殺し、(自分も)負傷して、この(狙撃手の)世界から降ろされた」。そこで得た結論は、戦争が終わったら「愛する人を持つか、生きがいを持て」と答えたのだった。

 こう答えた背景になるのは、第二次大戦中、すべての戦争参加国で後方支援に従軍した女性は沢山いたが、唯一ソ連だけが最前線に女性兵士を送り込んだのだそうだ。ゆえに、戦争と女性である自分との間の在り方に女性ならではの考えが生まれたのがソ連であり、それを表現したかったのだろう。


 この本のが注目を集めることになったきっかけ、第11回(2021年8月)アガサ・クリスティー賞の受賞作にこの本「同志少女よ敵を撃て」が選ばれたことだが、更に印象付けたのは翌年の2022年2月24日、ロシア軍がウクライナへの攻撃を始めたことから、この本のタイトルがにわかに注目を集めたのだろう。私がネットでこの本を区の図書館にリクエストした時も、そして今も、数百人が待ち行列に参加していることからもこの本の人気のほどが分かって貰えるだろう。

 ※もっとも、この本の厚み(物語の長さ)および「狙撃」という我々多くの日本人にはあまりに縁遠い仕事(?)のことに、理解が追い付いていかないだろうと思うが。


 


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