ホーム目 次 / 前ページ次ページ  


398.商品を売るのか、自分を売るのか  ・・・ (2023/06/04)   


 私が外資系IT企業で販売していたソフトウェアは「Webの負荷テストツール」、といってもほとんどの人はピンとこないでしょう。というのもプロ向け商品で一般向けではないから。

 簡単に説明すると、こう。あなたがサッカーゲームのチケットを購入しようとする。ネットから購入しようとして、あとはカードで支払いを済ませるだけ、となったところでエラーになってしまい、そこまで数分かけてした手続きが無駄になり、あらためて最初からやり直す羽目になる、なんてことが起きる。
これはWebサーバーの処理能力を超えたアクセスが殺到した場合に起こる現象なのです。Webサーバーを構築するエンジニアは、機能としての完璧を目指して設計、構築するが、案外見落とししがちなのが、同時負荷にどこまで耐えうる構造になっているかの確認なのです。

 Webの負荷テストツールは、あたかも100人が同時にアクセスした状態を仮想的に作り出す耐性検証用のソフトウェアなのだ。これを使って同時に100人が同じページにアクセスしたとしても、きちんとこなせる構造になっているのかを確認し、それをもって必要な修正を行うことが出来るわけです。
 実は、世の中に広く使われているティケット販売サイトの中には、数十人はおろか、10人以下が同時アクセスしただけで正常な反応が出来なくなるWebサイトがあったりするのには驚かされました。(でも、これが実態なのです)

 さて、こうした特殊ソフトで大きくなったイスラエル企業の日本支社に勤めたことがあった。1つのライセンスが安いものでも数百万円、高いものでは一千万円を超える金額になる場合がある。


********


 ある時懇意にしていた中堅IT企業の社長からこんなことを言われた。「えっ、あなた気が付いてなかったの?あなたは商品を売っているつもりかもしれないけど、実はあなた自身を売っているのですよ」と。

 自分では製品を売っているつもりだったので、これには驚きました。しかしよくよく考えてみると、この見方は正しいと思えました。というのも、ある大手コンピュータ会社の担当とお付き合いが始まったのだが、その方を皮切りに、次々と、より私の販売しようとしている製品を使うであろう部門のトップへと繋いでくださったのでした。

 そんな状況のなかで、たまたま縁があって私が同業他社に転職したのです。それまでこのソフトを買ってくださった企業の担当部長にそのことをご報告に行った時、最初は当然怒られると思った。そりゃそうですよね「いままでA社の製品を買ってくれ、とお願いしていたのが、次には自分がB社に転職したから今度はB社の製品を買ってくれ、というのですから。相手にしてみれば、裏切られたと思われても仕方のないこと」と。
 しかし担当部長さんに会って言われたのはこうでした。「我々外国製ソフトウェアを使ってきた側からすると、ある日突然、サポートが打ち切られることが一番困る。そこで聞くのだが、このどのB社の製品でそういうことが起きないと約束して貰えますか?」と。私が答えたのは、「私がこの会社にいる限り、サポートをしなくなることはありません」と。

 さて、冒頭の言葉に戻りましょうう。このエピソードで感じるのは、数百万、はたまた場合によっては一千万を超える金額の製品を買う場合は、製品の良し悪しもさることながら、その製品の良さの裏付けを販売を担当した人間に求めるわけだ。つまりセールス担当の言葉が信頼しうるものかどうかを確かめようとされたのだ。

 モノは違っても(中古車に代わったとしても)、世の中に複数の同種製品があった場合、まずは基本機能の違いが決定的なものでない限り、最後は、販売している相手の担当者の言葉、担当者自身への信頼が売れるかどうかの差を作るのだろう。冒頭の「製品を売るのか」はたまた「自分を売るのか」は、高額のものになればなるほど、セールス担当への信頼性の比率が購入決定のキーになることが頷ける。

 最後に。相手企業の担当部長さんとは、あちらが定年退職されたあとも、ゴルフを一緒するなど私的にもお付き合いが続いた。私が相手を信頼したのは勿論だが、相手も私という人間を個人的にも信頼しつづけてくれたわけだ。ただ、ただ、感謝しかない。





 


ホーム目 次 / 前ページ次ページ  

inserted by FC2 system