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173. 創業時の思いを捨てたビジネスの行く末は?  ・・・ (2015/01/01)


 以前読んだ堺屋太一氏の本にこんなぐだりがあった。組織には2つの目的がある。1つは創業時の目的、つまり何のために組織を立ち上げるのか。もう1つは、組織を維持・拡大、が二次的に出来てくるというものだった。

 私が30代で公益法人(財団法人)の立ち上げにかかわった際にいろいろ調べてみたが、公益法人とは名ばかりで、何の公益活動もしていない法人がいくつもあるのを知った(その後、政府としても、公益法人の整理に動いている)

 さて、以下の例はビジネス(企業)における出来ごと。ここにも創業時の目的があっただろうが、何度か社長がかわり、いまや目的は後者の「維持・拡大」だけとなった。 それでも公益法人よりはまだマシなのは(公益法人には解散はあっても倒産という概念がないので)、企業の場合は世の中の要望に応えられない企業は、いずれ自然淘汰されていくからだ。



● プロローグ ・・・・  小さな世界の大きな出来事

 小さな分野とは「中古車輸出ビジネス」 の世界のこと。私もこの仕事を始めるまでは、そんなビジネス分野があることすら知らなかった。この世界、驚くほど多数の在日外国人が活躍。その中で、インテリのパキスタン人(妻子はドバイ在住)と知り合ったが、彼いわく「自分は20年この仕事をしているが、この仕事を始めた当時は、日本人は誰も中古車輸出の仕事などしたがらなかった」だそうでした。そんな分野で起こった出来事ゆえ、一般の方には馴染みはないのは当然だろう。

 この会社、もともとはカーポイント(CarPoint)という社名でスタートした。当時の社長を存じ上げているが、それまで外資系(パッケージ)ソフトベンダーの社長だったその人が、異分野である自動車を扱った会社の社長になったことが意外だったもので記憶に残っていた。当時ことを「ウィキペディア」から拾ってみた(以下)。


 世界的なインターネット新車見積り事業の構築を企図していた米国・マイクロソフト社が、ソフトバンクを日本での合弁相手として設立した。実際の事業は1999年10月5日、両社のビル・ゲイツと孫正義を発起人とし、セブン-イレブン・ジャパンやYahoo! JAPANも関係して開始された。当初の社名とサービス名はともに「カーポイント (CarPoint)」であったが、2001年1月10日から名称変更され「carview」となった。

 新車見積り事業では成功を得られなかったものの、自動車関連の総合情報サイトとしては、月間4億PV、月間訪問者数1500万人(2007年7月現在)と、アクセス数において日本最大規模である[1]。SNS「みんカラ」は、会員数50万人(2012年1月)である。



 さて、この会社、上記のように「カービュー(carview)」 と社名変更し、その後、中古車の海外向け輸出のポータルサイト、トレードカービュー(tradecarview)を立ち上げた。タイトルのように、小さな世界の大きな出来事とはこのトレードカービュー(tradecarview)についてである。実は、2010年から私が中古車輸出を手掛けてきた際に利用してきたのがこのポータルサイトだったのだ(昨年、2014年12月末で契約は満了し退会)。



トレードカービュー加盟店の流出が止まらない   


 長い間、個人・中小事業者が中古車の輸出を手掛けようとするとトレードカービュー(tradecarview)に加盟し、彼らのポータルサイトを通じてでしか販売・輸出する手立てがなかった。そんな中、なにゆえ加盟店の流出が続いているのか。

 変化は2011年の東北大震災に遡る。あの年、多くの事業者が大打撃を被った。もちろん中古車輸出事業者もしかりであった。しかしソフトバンク系であるカービュー社ではどういう理由であれ売り上げの減少は許されなかったようだ。社長が交代した。更にその後も数回(3回?)社長が交代した。お陰で見掛け上の売り上げは回復したかに見えた 。しかしその影で加盟店とカービュー社の不協和音は高まっていた。


 大きな曲がり角は昨年(2014年)春の消費税アップだった。トレードカービュー (部門責任者)が提供するエスクローサービス(商取引の安全性を保証する仲介サービス)の1台当たりの手数料 14,286円+税714円=15,000円 を外税に変更すると発表したがサービス料そのものを15,000円に便乗値上げをし、更に外税にした自社サービスにかかる消費税(750円)を加盟店に押し付けた(天引き)。それが昨年4月だった。もともとは海外のバイヤーの、送金しても車が届かないのでは?という心配を払拭するためのものだったが、いつしかカービュー(carview)の売り上げの柱の1つとされてきた(カービュー社、IR情報より)。さらにある加盟店さんの調べでは、本来、こうした事業を営むには「資金移動行 」としての登録が必要だったが、それもしていなかったようだった。

 こうまでなりふり構わず売上アップを作ろうとした背景には、中古車輸出大手 (とはいっても資本金は 1,000万円、従業員数 150名)ビィ・フォワード(Be Forward) の躍進があった。トレードカービュー (tradecarview)という看板はあっても実態は中小零細企業の集合体。それに対しビィ・フォワード(Be Forward)  は一枚看板で売り上げを伸ばしていき、その差は歴然としていた。カービュー社にしてみれば、もとをただせば自社ポータルの1加盟店でしかなかった会社が大躍進 を始めたことに焦りがなかったはずもない。しかしカービュー社みずからが直接海外に販売、輸出をしている訳ではないので(加盟店各社が直接海外に販売していたので)売り上げ減少を食い止める手だてがなかった。


 そこで極めつけは12月1日からの料金体系の変更。従来の月額固定加盟料に加え、売上台数ごとのパーセント課金を追加した。しかも年間契約(随時開始し1年間)期間途中である多くの加盟店に対しても契約内容を一方的に変更しての強行である。

 2014年12月、新課金体制が始まったが、加盟店が提示した車輌価格にカービュー社の取り分が自動的に上乗せさせされて表示されるようになった。また問い合わせしてきた海外バイヤーのプロフィールを見てみると従来あった情報(電話番号)が消えていた。自社サイト外で取引が行われることを恐れたようだ。ならばと加盟店が相手に電話番号を直接たずねようとすると、カービュー社から横やりが入った。「その行為は規約○○に違反します」とメールしてきたのだった。つまり、加盟店の海外とのやりとりを「監視」していたわけだ。こうしてカービュー社と加盟店の信頼関係は地に落ちた。この期におよんでは、トレードカービュー加盟店流出の雪崩現象はもはや止めるすべもなくなった。もっと卵を産めとばかりにニワトリの首を絞め、ついには殺してしまったわけだ。

 ※ 公正取引委員会(審査局情報管理室 )に「優越的地位の濫用」として申告(相談)の動きもあるようだ。



エピローグ

 2007年に東証マザーズに上場を果たしたカービュー社。以来7年に渡って個人に中古車輸出の道筋を提供してきたカービューだが、そこには光と影を内包していた。それもまもなく上場廃止となる。今春、ヤフーの完全子会社となるからだ。その場合、海外向け中古車輸出ポータルのトレードカービュー(tradecarview)がどうなるのかだが、現場の社員に聞いた範囲では何も知らされてはいないようだ。分かるのは、今も加盟店募集を続けていることだった。かつて成功事例紹介としてこの場にたったモデル加盟店さん(私の知る範囲で3社)が、いずれも現在はトレードカービュー( tradecarview )から撤退している事実をカービューはどう説明するのだろうか?


 さて、
小さな分野(中古車輸出分野)で起きている大きな変化(加盟店の輸出事業の存続が危ぶまれる)ですが、一般の方には馴染みのない世界の話しですので、「へぇ〜、そんなことがあったんだ」という程度で読んで貰えればと思います。

 むしろ冒頭のテーマ、組織には2つの目的があり、「創業時の目的」の他にもう1つ「組織を維持・拡大するという」目的があとから出来てくる、ということが話題がこのコラムのメイン。今回のこのケースは、後者の「自社の存続と拡大」という目的のみで存続しつづけるケース。

 世の中にはこうしたケースは特にめずらしいものでもなさそうですが、創業しようとされる方は、こうした悪しきケースを戒めにしていただきたい。




 余談ですが。

 
いままでは個人・中小事業者が中古車の輸出を手掛けようとすると今まではカービュー社のポータルに加盟し彼らのサイトを通じてしか販売する手立てがなかった。が、ここへ来て それに代わる輸出支援ビジネスが複数立ち上がって来ている。筆者が知っている範囲で以下の5社がサイト立ち上げ準備をしている。現状から推測すると本格稼働は今春くらいからのようだ。

1.GooAuto ご存じ中古車情報誌「Goo」が母体となった海外販売サイト、1月20日よりスタートだそうだ

2.CarFromJapan 加盟店が出品、CarFromJapanが販売するという新しいビジネスモデル、英語が出来なくても輸出が出来る

3.CardealPage  カーディールページ 陸送の潟鴻Wコが株主

4.kaerucar.com 韓国に拠点を置く企業が日韓で加盟企業を募っている

5.used-car-tokyo エイチ株式会社が運営


 国内中古車販売の大手「ガリバー社」がニュージーランドへ進出したように、市場の拡大とともにより大資本がこの事業に進出するのは時代の趨勢。かかる状況で、中小零細が単独でインターネットを通じて海外輸出を手掛けるのは不可能。中古車輸出事業で生き残りたいと思うのであれば、上記いずれかに加盟するか、独自に海外ルートを持つしかないだろう。



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