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12月15日 たけさん 59歳   「私にとってのゴルフ」

散々だった私のゴルフ
 
 時間が出来て真剣に思ったことは、せめてゴルフの腕前、フォームをもう少し上達させたいということだった。長い間ゴルフをしてきて味わった屈辱の日々(?)、それを何とかできないだろうか。読者の皆さんには特殊なケースと受け止められるかもしれないが、少し私の個人的な事情にお付き合い願いたい。

 初めてゴルフクラブを手にしたのは30才前後だったから、既に25年以上はゴルフをやってきたことになる。もともと運動神経は鈍い上に私には特別のハンディキャップ、具体的には習慣性の脱臼という持病があった。小学生の頃、左肩を脱臼して以来、高校一年、大学四年のときを含め30歳までに既に5回の脱臼経験があり、そのたびに骨折医のところに行き左手をひっぱりはめ込まれるのだが、麻酔をかけられても強烈な痛みを感じる。あの思いをするのはもう二度と嫌だと思っていた。そしてゴルフを始めた時、スイングをきちんとするとまたあの脱臼になる確率が高いことを知った。再三の脱臼のため私の左肩関節、ちょうどフォロースルーをとる方角には軟骨がなく、ちょっとしたことで骨が外れるからだ(現に何度もあわや、という目にあっていた)。このため、私のスイングは左肩への負担を避け、いわばパンチショットを打ち込んで終わりという変則型になり、フォロースルーを取ることは難しかった。その結果か、私のゴルフは飛ばない、スライス、変則フォームと、何とも情けないもので、会社では「同期三下手」と揶揄される始末だった。

 それでも、芝生の上を歩くことは気持ち良いし何といっても運動をして身体を動かすことは楽しい。恥ずかしげもなくそれなりにコースに行っていたし、練習場にも一、二週間に一度は行った。この結果、時間がたつに連れて要するにごまかしがうまくなったのか、40才くらいではスコアがダブルボギーから100を切る前後になった。このくらいになると次第に面白さも増してきて気合も入る。つい脱臼のことを忘れがちになった。そして、ついに運命の日がやってきた。ある春、部のコンペがあり泊りがけで伊豆の長岡に行き、翌日プレイが始まった。その直前、業界の30人前後のコンペで初めて80台を出しぶっちぎりで優勝した直後でもあり、少し意識過剰だった。11番ホールの第二打、フェアウエイの絶好のポジションから五番アイアンで第二打を打った。ビシッと決まっていい当たりだ、と思った瞬間、左肩に強烈な痛さ・・ああ、遂にまたやってしまった。

 それからは大変、クラブの車に乗せられ伊豆長岡の骨折医のところに連れられた。もう年だし、うまく入るだろうか、それともこの痛みのまま東京に帰り手術となるのだろうか、と不安そのものだった。幸い、温泉地では階段から落ちたりして骨折や脱臼をする人が多いらしく、物慣れた医師は上手にはめてくれて助かった。

 しかし、東京に戻り考えた。まだ人生は長い。これからもいつも脱臼を気にしながらゴルフをするのではかなわない。思い切って手術をしよう。そうは決めたが、下手をすると手術後円滑に肩が回らなくなる場合もあるという。それでは困る。知り合いの先生に相談して、幸い肩の手術では日本の権威の一人という先生を紹介してもらった。この先生は大磯の東海大学病院におられ、都内からは遠かったが仕方がない。たびたびの脱臼で骨を包み込む軟骨が一定の部分だけ欠けていたのを、人工的に復元する手術をしてもらった。全身麻酔をしてかなり本格的な手術、術後、点滴、尿管、などでいわゆるスパゲティ状態にされたが、それでも翌日から歩け12日目に退院した。その後、一ヶ月はギブスをして完全固定、そのあと少しずつリハビリを開始した。始めはほんの10センチも左手が上がらず、これは大変だと思った。三ヶ月でようやく水平くらいにまで上がるようになったが、概ね元に戻るまで半年、この間痛いのを我慢してせっせとリハビリに励んだ。しかし一応回復し再びクラブを握れたときは本当に嬉しかった。これからは脱臼を気にしないで自由にフォローを取れる、万歳だ。

 しかし・・・、肩はよくなっても長年フォローを取らないスタイルで打ってきた身体は急には変わらない。結局、そのあとも同じようなフォームでごまかしのゴルフを続け、95前後のスコアで回っていた。特にスライス症状は如何ともしがたく、四人でティーショットを打つとたいていは私が一番手前、二打目はまず私から打つことが当たり前で、この屈辱感は辛かった。


門をたたく勇気
 
 さて、そういう状況の中、自由になる時間がそれなりに出来たのである。今度こそきちんと習ってみたい、もう遅いかも知れないがその頃から「やろうか、やらないか迷ったらやる。何故ならやらなければ今までと何も変わらないのだから・・」という方針を何事にもとることにしていた。それまでは時々練習場の所属プロに見てもらったことはあったが、左肩脱臼の話をすると哀れむ、あるいは軽蔑するような目つきに変わり、それ以上本気で相手にしてはもらえなかった。それだけに、今度こそ、という思いがあった。ちょうどその頃「定年後はゴルフでシングルを目指そう」(佐藤拓栄著、亜紀書房)という本を読み、刺激されたこともある。

 ところで、レッスンプロに習うにしてもどこに行けばよいのだろう。これまで、どこでもあまり気持ちの良い思い出はない。手術をしたからもう心配はないとはいえ、身体の硬さ、運動神経のなさを思うと気が重い。しかし、座していてはこれまでのゴルフを続けるだけだ。そんな時、通勤の途中、東西線の早稲田駅で「日本ゴルフスクール」の案内を見た。そこにはかつてテレビでよく見かけた小松原三夫プロが教えている写真が出ている。どうせ習うなら一流の人が良い。私は早速その場所を訪ねた。 ゴルフレッスン場というからネットを張った建物があるのかと思ったらそんなビルはない。住所は地下鉄、早稲田駅からすぐの筈なのに。仕方なく電話を入れて場所を聞いたところ、目指す場所は目の前の小さなビルだった。こんなところで大丈夫なのかと思いながらその六階と聞きエレベーターのボタンを押した。

 練習場はビルのフロアの一角にあった。ボールを打つ所と先方のネットまではほんの四、五メートルきり離れてないが、スイングを映すビデオがあり、もと野球選手だったという辻幸雄プロがいた。小松原氏はもう年齢で日常は辻プロがやっているらしい。さて、この日から私にとっては非常に意味のあるレッスンが始まった。
 経験者はよくご存知だろうが、ゴルフの癖、直すべき点は千差万別、人によりすべて違う。また当人が高校生や大学生で理想に近い教えを吸収できる場合は教える方も簡単だろうが、既に50台半ばを過ぎ、身体は硬く肥満体では言われても出来ること、出来ないことがある。その個人差を見ながら、本当にどこからまず手を付けるのかを指導するのがレッスンプロの巧拙だと思う。相手が誰でも、あるべき姿を同じように説いているのは教える方は一番簡単だが、実効は上がらないだろう。だから、ゴルフに関する書物は巷にあふれているが、それを読んで本当に身に付いたという話は少ない。
 この点、辻プロは現実的でわかりやすいレッスンをする。結果的には効果も十分出た。私自身の技術的な問題とその処方箋をあまり仔細に記すのは興ざめと思うので、いくつかの例示にとどめるが、実際の話を書かないと意味もないのでしばらくそういう話に付き合っていただきたい。

 まず、プロは当面何を目標にしたいか、と聞く。私はオフィシャルハンディ(当時26)を10台にして、85(ハンディでは13、4)くらいで回れるようになりたい、長年のスライスを克服したい、ということを言った。
 これに対して、彼(以下、プロ)は「ボギーベースで回ることは誰でも出来る。そうすれば90だ。まず、それを目標にしよう」ということになった。こちらも異議はない。いつも90で回れればハンディは理論上18以下の筈、憧れの10台になれる。 彼はボギーベースで回るためには次の発想が大切という。むしろ取り組み姿勢、精神論の世界だった。

1 ボギーで回るためには、ボギーオン、2パットでよい。従って、ミドルホールなど無理して2オンを狙わない(欲を出すとバンカーに入ったり、グリーンオーバーして怪我をしがちになる)
2 そう考えると、ティーショットは飛ばす必要はない。180ヤードも行けばよい。しかし、できるだけフェアウエイにおきたい。
3 グリーンは手前から、手前から攻める。ダイレクトに狙いオーバーしたら必ずとがめるようにコースは出来ている。また例えバンカーが得意でも、バンカーに入ると何が起こるかわからない。危うきに近寄らず、絶対にバンカーに届かないクラブを持つべきだ。この気持ちでいけば、結果的にはグリーン周りのほどほどの所にボールは残る。
 これを寄せる。ピンをオーバーしない気持ちで打つ。そうすればたいていは二パットでおさまるところに止まる。たまには幸運で一パット圏に近づくこともある。
5 パットも同じ気持ちでオーバーしないように打つ。3パットほど無駄なことはない。

  以上のような考えに徹し、とにかくダブルボギーを打たないことに心がけること、そうすれば結果オーライのパーも必ず出るから、仮にダブルボギーが出てもそれで相殺でき、ボギーペースの90で回れます、というものだ。勿論、80で回るためには別の考えで行かなければならないが、まず90で安定的に回るにはこの考えが大切だ、と言われた。なかなかここまで枯れた心境にはなりにくく、またティーショットはやはり最低200ヤードは欲しいという見栄もあるが、一方、確かに素人ゴルフではコンスタントに90で回ればそれなりのものだ。先生の教えに従い、レッスンに通うことにした。


為になったポイント

 
 ところで、その費用は安くはない。10枚のチケットが27,800円。レッスンは15分単位でそれに一枚のチケットが必要、つまり、15分で2,780円かかることになる。もっとも次の客がいなければ多少の時間超過サービスはあるが。そして原則、予約制だ。先生は生徒一人にマン・ツー・マンのレッスン。安いか、高いかはどれだけの向上ができるか、見合った実益を得られるかによるだろうが、一般的に言えば非常に高い。その面では躊躇うところがあるが、何とか進歩したいので仕方がない。むしろ、本番のコース行きの回数を削ってでも基本から学びたくなった。
 短い時間を有効に使うためにはポイントを決めて教えてもらう方が効果的だ。どうしてもこすり玉ばかり出るときとか、バンカーから脱出できなかったとき、アプローチがトップしたとき、などその都度質問したいことを決めて行くと壷をおさえて何が悪いかを指摘してくれる。それには一五分で十分、むしろ聞いたことをメモしてあとで家の周りや近くの練習場で復習することだ。ただ興味深かったのは、練習が二メートル先のホールにサンドウエッジでアプローチすることから始まったことだ。これが全ての基本という。また、最大の問題、スライスを直し、ドロー系の球筋に変えるために直すべきことは徹底して教えられた。
 
 本編はゴルフの練習方法を記す目的ではないので、これ以上細目は省く。ただ、餅は餅屋である上にこの先生は個人のレベル、癖に合わせた教え方がうまく、週に一度練習に通う意欲が高まった。ゴルフをしたことのある人は誰しも共感してくれるだろうが、ゴルフでは「開眼」はしばしばあることだ。そして今度こそもうわかった、と思いながら次はまた元の木阿弥ということもしょっちゅうだ。それは本当の原因がわからないで、たまたま幸運なときだったということだろう。しかし、この辻プロについて同じことをいやというほど聞き、経験を重ね、そして先生の「マインド・コントロール」に忠実に、欲を出さず忍耐強くやれば確かにあまり大たたきはしなくなる。

 また、ゴルフに何を求めるかにより異なることではあるが上手になりたいのなら月例競技などに参加して、見知らぬ人とノータッチ、バックから、もちろんOKボールなし、というゲームをすることだと思う。そもそもこのスポーツはそういう精神でできたはずだから、うまく打ったつもりでも運悪くバンカーにつかまることもあれば、ビボットにはまることもある。一方、結果オーライで思いがけない幸運が舞い込むショットもある。まるで人生そのもののような面もある。しかし、いずれにしても甘えた気持ちでボールを打ちやすいところに動かし、短いパットは打たなくて良いというゴルフをしていては上達は望めないと思う。そいいう習慣も私の先生の言う精神論、心構えのひとつだ。
 もちろん、人はさまざまだ。所詮遊びだ、付き合いだと割り切り、昼はビールを飲み午後は赤い顔でゲームをする、むしろお喋りや握り(賭け)が楽しいのだという方もいるだろう。それはそれで楽しいことだし、各人がお金をどんな目的で使うのも自由だから差し出がましいことは言わない。ただ、読者がスコアアップを望むのならちょっと参考にしてほしいことだ。

 こんなことをしていた結果、所属クラブの忘年杯、建国記念日杯に優勝し、その他の月例会でも入賞が続き、7月の会報に投稿を依頼された。スコアも概ね90内外、調子が良いと80台が続くようになった。こうしてハンディキャップは16になり、先ずは第一段階で目標としたことは概ね達成できたように思う。後述するがその後、右手の小指を骨折したのでしばらくゴルフが出来なかった期間が続き、再開後も指の握りが不自由で今一歩だ。もう一度やり直しの感じもある。ただ、長い間あれだけ問題だらけで歯ぎしりしていたことを思えば大変な違いだ。昔から一緒に遊んできた仲間とやっても、ティーショットはむしろこちらが飛ぶことが多くなり、グロスのスコアも良くなってきた。相手は一体どうしたのだという感じで見つめる。先生のマインドコントロールは私には非常に効果を発揮している。年末、無欲で臨んだらアウト、インそれぞれ40の80という生涯ベストが出た。
 現在は次のステップとして、「見た目に綺麗なフォームで打つ」という新テーマに取り組んでいる。いよいよ、念願のきちんとフィニッシュをとる打ち方、これが出来てハンディも15以下になれ月例もAクラス入りが期待できる(辻幸穂先生の著書「ゴルフはやさしく覚える」(廣済堂出版)はわかり易く先生の考え、指導法をまとめてある)


先遣隊員のつぶやき

 こんなことを言うのも何だが、身の回りにはゴルフはやるが思うようにいかないと嘆く人は多い。健康のためになればよい、友人と過ごすのが目的、という人には余計なお世話かもしれないが、もしスコアを良くしたいのならやはり本職に習うのが早道ではないだろうか。それは時として、「この間言ったことをもう忘れたのですか」とか「とにかく言う通りにしなさい」とか厳しいことも言われるが、目的のためには信じてついていくに限る。何か新たな展開を希望するときは、ちょっとした勇気がいる。それは少し恥ずかしく、あるいは面倒なことかも知れない。しかし、やらなければ現状は何も変わらないのだから、何かやろうか、やるまいか、迷った時はやる、これはこのところの自分の信条にしている。何となく気に入ったフレーズになって来た。

 


<50歳からの手習いゴルフ・管理人>
  

  読ませていただき、とても読み応えのあるお話でした。お一人、お一人のストーリは、まさに小説化するに値するほどドラマチックですね。ありがとうございました。
 これを読んでいらっしゃる方も、よろしければご自身のゴルフにまつわるエピソード、紹介してみませんか。きっと同じ思いでゴルフをやってきている方がいるはずですので。

  ベースボールマガジン社「50歳からの飛ばしBOOK」を送らせていただきました。


 


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