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94.体験その3 ・・・ スティーブ・ジョブスの世界 ・・・ (2011/11/26)

入院してはいるが、案外元気そうで暇な時間をもてあましていることを家内から聞きつけた息子が、私のために最近ベストセラーにもなっている「スティーブ・ジョブス」を買ってきてくれました。上下巻両方でトータル900ページほどあり、今回のように入院でもしていないと、数日で読みあげるということは難しかったかもしれません。読んでみて感じたのですが、この本は全巻(上下二巻)を読まなくては意味がない、と思えました。どちらか一巻だけではスティーブ・ジョブスという人間そのもの、また彼がやってきたことの意味が分からないだろうと思うからです。



 「スティーブ・ジョブズ(1)」 
 The Exclusive Biography
 ウォルター・アイザックソン/井口耕二
                        講談社 1,995円(税込)


 「スティーブ・ジョブズ 2
 The Exclusive Biography
 ウォルター・アイザクソン/井口耕二
                      講談社  1,995円(税込)


上下巻を読んでみて、人間としては同じジョブスですから性格もアップルを創業した頃と(一旦追い出された後)アップルにカムバックした頃からiPhone4をリリースする頃まで行動パターンとしては何も変わっていないように見えます。例えば彼の癇癪。初期の彼も、その後の彼も同様なのですが、後半は明らかに癇癪を起こした結果を想定しているように見えました。この場はこうしたほうが良いのだ、と思っているフシがありましたね。ある種、人生のかけひきなのでしょうか。

ジョブスと比較対象にされる相手にマイクロソフトのビル・ゲイツがいます。彼もジョブス同様に我が儘ではあってもセールスマンであったがゆえに、儲かるという一点のためには妥協が出来た。しかしジョブスにはそれが出来なかったし(彼にとっては必ずしも儲けが第一優先にはならない)、また出来なかったが故に損もし、遠回りをしたこともあったことは本人も認めていました。



さて、アップルの製品ですが、他社の製品と著しく異なるのですが、この本の中で解説されたアップルのような垂直統合(ハードウェア、OS、アプリ、ユーザ環境)だということ。それが良いのが、はたまたマイクロソフト、そしてその後のグーグルに見るオープン統合(マイクロソフトの場合はOSから基本アプリを提供し、ハードウェアその他は、それぞれの専門企業にゆだねる)が良いのかという点は今後とも産業界の課題となるでしょう。私の印象は、垂直統合はジョブスのような優れたセンスを持ったオーナーCEOがいなければ出来はしないだろうと思う。(やったとしても失敗する)

失敗したケースに取り上げられるのがソニー。よく言われるのが「何故ソニーにiPodが出来なかったのか」だ。実際問題、ソニーではハードは勿論、音楽関連会社まで自社で持っていたのだから、傍目にはジョブス以上にiPodを作り易い立場にあったはず。この本によれば、出来なかった理由は部門間の利害の対立を超えてまとめるだけの力あるリーダーがいなかったから、としている。(ジョブスであれば、アップル全体として儲かるか儲からないかを考え、部門の利害を斟酌する必要すらなかった)

ジョブスのビジネスで実現できて、ソニーに実現出来なかった理由がもう1つある。アメリカにおいてはトップ2%が富の8割を持つといわれているがトップレイヤーの人たちは、シリコンバレーのIT企業トップに限らず、芸能界、政界などジャンルを超えて横に繋がっている(これは日本でも同じだろう)。このテーマならどこの誰と話せばよいのか、よしんばそれを知らなくても知人、友人がそれを教えてくれる人的ネットワークがある。最近のソニーに、米国のトップ層とファーストネームで呼び合える関係を持つ若きリーダーなどいるはずもない。ジョブスのいるアップルより、要素技術をそろえていたとしても、ジョブスのようには出来っこないのである。


ジョブスはプレゼンテーションの名人と言われているが、それはそうだろう。なにせリリースする製品のコンセプトから製造、宣伝まですべて彼が直接手がけるのだから、彼以上のその製品の良さを語れる人がいるはずがない。

二巻目、本の最終ページが近づくにつれ、彼の人間っぽさが良く現れてくる。感受性が豊かゆえに癇癪を起こして関係を台無しにしてしまうことがままある。その実、心の中では後悔もするし反省もしている。これは仕事だけではく、家族に対してもそうだったようだ。最初の子(娘)リサの認知をずっと拒んできていたが、ずっと気にしてはいたようだ(マッキントッシュの前に作ったコンピュータにリサという名前をつけている)。彼の場合(というか、一般的にそうだろうが)男親というものは、ややもすると娘達と距離が出来てしまうようだ。恐らくは、女の子をどう扱ってよいものか分からなかったのだろう。

人間、自分のやりたいことを先まで見通せて、しかもそれらを実際によやってのけたのだから、人から偉大だと褒められずともジョブスの人生は満足のいくものだったろうと思う。

私が彼が作り上げた世界を共感し易くするものがあるとすれば、1つは彼がアップルコンピュータを創業したその年、1976年アメリカにいたこと(当時のアメリカ社会がなんとなく推測出来る)、そしても1つは、アップルのパーソナルコンピュータを4世代(MacintoshSE,  Macintosh Centris 650,  PowereBook, iBook)、使い続けたことからだろう。そこから感じたものは、アップルが作ったコンピュータは、IBM・PC(Windowsマシン)が生産性を高めるための道具であるのに対し、創造性を高めるための道具であったと感じた。つまり、同じようにパソコンというジャンルでくくられてはいても、そもそもの製品のコンセプトから違った製品だったのだ。ユーザにアップル製品を使って楽しいと感じさせ、これを使って何か自分の創造性を発揮させてみたいと思わせるところが、ジョブスが作った製品の最大の特徴だと思う。




「スティーブ・ジョブス」を読んでみて、もしゆとりがあれば、こちら「巨象も踊る」も読んでみられると良いかと思います。方や林檎(アップル)という名前のベンチャー、方や国際業務用機器(IBM:インターナショナル・ビジネス・マシーンズ)という会社。同じコンピュータでもずいぶんと違うもんだな〜という感想を持たれると思います。


 「巨象も踊る

 ルイス・ガ-スナ-/山岡洋一
 日本経済新聞出版社  2,625円(税込)

 




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