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58.「おお、定年」&「たった一人の再挑戦」 ・・・ (2010/06/27) 

 加藤 仁 著、1985年、文藝春秋 刊


 この本との出会いは、まったくの偶然でした。ご近所のゴルフ仲間と近くの交差点で待ち合わせをし、一緒にランチに行こうとしているところでした。待ち合わせの時間になっても現れず、手持ちぶさたな私は、ふと目にとまった古本屋の店先を見るとはなしに見ていました。目にとまったのがこの本。まさに私のような定年初心者が読んでおくべき本のように思えました。

 ちょうど本の整理にと店主が店の外に出てきました。「これいくらですか?」と聞くと、本の奥付を見て「100円です」と。ポケットから100円コイン出し、本を受け取って帰りました。

 むさぼるようにこの本を読みました。本のサブタイトルにあるように、150人の方、それぞれの定年が書かれていました。そして、あとがきには、こんな文章がありました。


 「私は定年退職者の取材を始めるとき、全員実名で登場していただくという制約を私自身に課した。不遜な言い方を許していただけば、おそらくその名を歴史に残すことのない人びとがどのように昭和を生き抜いたか、そえぞれの生活史を記録しておきたかったのである。匿名、仮名であると、語られる「事実」に抑制が効かなくなり、叙述に節度がなくなるおそれもある。ノンフィクションを装ってフィクションとおぼしき眉ツバ記事やサクセスストーリーがあまりにも氾濫している。しかし思いがけない取材拒否に出くわして、いくど節を曲げようかと思ったことか。実名では書けない、表現方法が見つからない対象を今後にゆずるとして、とにかく初心を貫徹した。ただし、会社名を明かすことにこだわられたひとがいて、数名だけその社名を伏せてある。また表現上、一部の人びとの敬称を略させていただいた。とにかくこの取材過程において、老人を孤独に追いやるのは周囲だけでなく本人のなかにもその衝動があると、あらためて教えられた。

 では、取材できたにもかかわらず、私が書くのをためらったひとがなぜ百名もいたのか。そのことについてもふれておかねばならない。これまた理由はさまざまある。本人は意気軒昂としてしゃべるが、家族の表情があまりにも暗かったり、なかには家族と絶縁状態であったり、神憑りすぎて生理的になじめなかったり。短時間のうちに同じ回顧録を五回も六回も述べる老人性痴呆症とおぼわしき年寄りもいた。大金を貯め込むことが人生のすべてなのか、団欒にも親睦にも背を向ける老人もいた。実名をあげて書くには痛ましく、哀しすぎる。ご協力を仰ぎながら書けない私の未熟さも痛感している。

 こうして残る百五十名に登場していただくことになった。」



 (私の自宅から二十分ほどのところに高輪の泉岳寺があるのですが)なんだか忠臣蔵にある、討ち入りした四十七士それぞれに壮大なドラマがあったであろうことと同様に、この本にある百五十名にも、ひとりひとりのドラマがあったことに、軽いショックを覚えました。

 この本、今から25年も前(1985年)に出版された本ゆえに、登場する人たちのご年齢が、私の父の世代であったりした。ならば、この著者、加藤 仁氏の近著がないものかと探してみた。インターネットとは便利なものである、なんとおよそ76冊ほど、加藤氏の著作がリストされました。さらに、前述の「おお、定年」も、古書を扱っているネットショップでなら、数こそ限りあるものの、あんがい簡単に手に入ることも分かった。

 そして買ったのがコレ!

たった一人の再挑戦 文春文庫680円


 加藤 仁 氏著、 2008年5月文春文庫刊

 以下は、ブックカバーの解説より

  あなたは会社退職後のセカンドプラン、具体的に考えていますか?充実した定年後を過ごすために準備するに早すぎることはない。本書には一流企業を早期退職した四十人余りのセカンドライフの在り方が記載されている。海外雄飛、福祉、企業 etc。あなたが想像しうる会社人間以降のヒントが必ずあります。


  こちらの本は、もしご興味があれば、読んでいただくこととして、私がこの本と共通して、今、実感していることがこちらです。

 大企業のサラリーマンが大仕事を成功させたいといっても、職場に人材、設備、資金などの”インフラ”が備わり、さらには時の運にも恵まれたからこそ可能ではなかったのか。むろん個人の奮闘努力にも敬意を表するが、組織力と時運という大きな要因があったことは否めないであろう。逆に、こうした職場環境から離れたとき、人間としての真価が問われていると私は思っている。


 これを読んでみて感じたのは、退職後いち早くこのことに気がつくかどうかが、その後の展開に大きく関係してくるのでは?ということでした。







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