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131.「55歳からのハローライフ」 村上龍 著 ・・・ (2013/01/27)

 このホームページでもご紹介したように、「定年」にまつわる本は何冊も読んできました。それぞれの本は、それなりにインパクトがあったのですが、村上龍氏による小説「55歳からのハローライフ」は、今までの本とは異なるインパクトを私の胸に与えるものでした。例えて言えば、この本はゴルフのスウィング理論の本ではなく、伊集院 静氏のリンクス巡りのような本だからなのです。良く出来た小説は、現実よりも現実を良く表しています。





 5部構成になっていました。日経新聞(1/20)に掲載された村上龍氏の「あとがきのあと」によれば、「中高年の困難さは経済的な格差を伴って多様化し、解決策は一人ひとり違う」と。このため、5部それぞれ経済的な視点を交え、また男性の視点だけでなく、女性の視点も交え、描かれていました。


「結婚相談所」 ・・・ Time goes by Every Little Thing 
 定年後の再就職に失敗し、自宅にひきこもりとなった夫に失望し、離婚を決意した女性のお話し。自立してはみたものの経済的な安定を求め、結婚相談所をたずねる。そこで紹介された男性と見合いを続けるなかで起こった出来事、そして気づきが綴られている。


「空を飛ぶ夢をもう一度」 ・・・ 聖母たちのララバイ by  岩崎宏美
 リストラにあった男性が生活のために道路工事現場の交通整理の仕事を始め、そこで中学校時代の同級生と再開する。しかし彼も幾多の問題を抱え、ホームレス状態、最後は病気で死んでいく。彼の最後の一時期に関わる中で、自分が生きていることの有り難さを実感する。


「キャンピングカー」・・・ 駅 by 竹内まりや 
 定年になったらキャンピングカーを買って夫婦で旅行がしたい。そんなことを考えていた夫が、自分の夢は妻の夢とイコールではなかったことを気づかされる。子供に諭されて、再就職を模索するが、ことごとく断られ、挫折感を覚える。


 「ペットロス」 ・・・ シルエットロマン by 大橋純子
 定年を迎えた夫だが、夫婦の会話は途切れがち。愛のかけらも感じられないと夫の生活。思いついて、昔からの夢だった「犬」を飼い始める。犬をつれていく公園で出会った様々な人間模様は新鮮な驚きだった。そんな小さな幸せが、犬の病気で壊れていく。必死に看病する妻を見て、無理解と思っていた夫が、ほんとうは心から自分を心配してくれていたことを知る。


「トラベルヘルパー」 ・・・ 初恋 by 村下孝蔵
 離婚した両親、そのため和歌山で海女をしているおばあさんのもとで育てられる。無口だった男の子も、村のみんなのお陰で良くしゃべる子になる。時代が変わって男はトラック運転手になり、一時期は羽振りよく暮らす。結婚もしてみたが長続きはしなかった。年齢とともに体力は落ち、また業界も変化し、収入は下降線をたどる。サラリーマンで言えば定年の年代になり、家庭のぬくもりが欲しいと思えるが、それを求めるには難しい年代だった。


 全編に共通する道具立てとして「飲み物」が登場する。紅茶であったり、ミネラルウォーターやコーヒーであったり。そして中国茶、アイスティが登場する。著者が設定した「飲み物」とは別に、私にはこの小説を読んでいて昔の歌が蘇ってきました。上の5編のタイトルの横にあるのがそれです。直接物語とは関係ないのですが、なんとなく思い浮かんだ曲でした。この小説を読み終えたあとの、なんとも不思議な感覚を癒し、現実の世界に戻るのにこんな曲が役だつのかもしれません。




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