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100.ウェブ進化論 (2006/03/19) 

 「ウェブ進化論」というタイトルの本が新刊として書店に平積みされていました。私もIT産業に身をおくものとして読んでみましたが、久しぶりに面白いテーマを扱った本でした。私はゴルフ初心者ですので、ゴルフのうんちくを語ることは出来ませんが、IT関係であれば30歳代にはパソコン雑誌の原稿を書いたりいたりしていましたので、まあ専門家向けにお話しするのは無理としても、一般の方に分かり安いお話しするくらいは出来るのではないかと思っています。

 この本のメインテーマはGoogle(グーグル)という検索エンジンがいかに新しい世界を創りあげているか、という解説で、IT業界の人間にとってはこれがとても面白いものなのだが、一般の方にとっては専門的過ぎて、ここにあげるテーマとしては向かないと思う。簡単に言えば、キーワード検索で検索されたものをリスト、表示するにはそれなりのアルゴリズム(問題解決・目的達成のための段階的手続き)があり、それが従来にない素晴らしいものであり、またそれが新しい世界を提供してくれているのだ。ここでは、私なりにテーマをしぼり、また理解したことを説明をさせていただきます。

1.インターネットの可能性の本質
  この本の著者は、この本の中で面白い例を上げていましたので、インターネットの可能性を説明するものとして、そちらも紹介しておきます。一人の人に「1円で結構ですから私にください」、とお願いするとします。まあ、1円ならあげてもいいよという人が1億人いたとして、これで1億円を稼げるわけです。しかし実際にそれをやる人がいるかといったら、まず誰もやらないだろうと。それは1億人から1円を貰うコストが掛かり過ぎるから。ならば、これをインターネットでやったらどうなのでしょう。インターネットならば、1円を回収するコストは極端に安く出来てしますでしょう。それがインターネットの可能性、特にGoogleが創出する可能性なのです。

2.ロングテール現象
  文字通り尻尾が長い形のことで、恐竜をイメージすると良いのかもしれません。マーケティングの用語にABC分析というのがあります。全体の売上げを構成する商品をリストしてみると、上位数点、数十点でほぼ8割〜9割を占めていたりします。残った売上げの1〜2割には、実は数多くの(もしかしたら8〜9割の)商品が並んでいます。これを棒グラフにすると、まるで恐竜が立っていて、頭から尻尾にかけてなだらかに下降曲線を描きます。この尻尾が極端に長いと思ってください。それがロングテール現象の意味です。

 さて、従来のやり方では、マイナーな存在のものが日の目を見るということは、ほぼ絶望的なほどに可能性が低かったのですが、インターネットの検索エンジンがそれを可能にする、というものです。つまりスーパーなどが実施している「売れ筋商品」を売るのではなく、(良いものではあっても)「売れない筋商品」をGoogleが発掘し、それを世界に向けて紹介したとすると、形勢は逆転します。こうした可能性を秘めたインターネット上の力がGoogleにはあるのです。

 理解を得るために、もう少し具体的な例を上げてみましょう。東京には、こんなモノ一部のマニアしか売れないだろう、という商品ばかりを集めたお店が存在するようです。なぜなら人口が1000万人もいれば、その0.1%を相手に商売をしても1万人が顧客になる可能性があります。
 では同じタイプのお店を地方都市に作ったらどうでしょう。これはまず成功しないでしょう。なぜなら人口が東京ほど多くないので0.1%を相手にしていたのでは商売にはならないからです。

 このように絶対的な人数がいる場であれば、たとて0.1%、もしくはもっと少なくて0.01%を対象にしても商売になる可能性があるのです。であるならば、世界を相手に出来るインターネットだと、もっとマイナーな存在でもビジネスとして成り立ちうるとは思いませんか?インターネットというメディアを介在させれば、それこそその道のマニアでもない限り興味を持たないであろうモノについてもビジネスとして可能にすることが出来うるわけです。Googleはそうした場を提供しうるインフラ、と考えても良いのかもしれません。


 まあこれで興味を持てたようであれば実際にこの本を読んで見られると良いでしょう。新書でしかも800円弱の値段です。それで、これを読んでも良く分からないという人がいたとしても、心配しないでください。なにせ著者いわく、IT産業にいてもご年配の方、彼がいうところの「日本のエスタブリッシュメント層」でも理解してくれなかった人が沢山いたようですので。ましてIT産業ではない一般の方が分からなくても、それはそれでも構わないのかもしれません。

 

補足:

 最近になって、ウィニーというソフトが一般社会でも問題になってきています。それを知った政治家、テレビ司会者、などが「パソコンを使わないほうがいい」と言い出したのには驚いてしまいました。それって、まるで、自動車事故が怖いから運転するのをやめよう。地震が怖いから外出するのはやめよう、といっているようなものだからです。

 以下は、私のかつて上司だった大学教授が、私の依頼に応えて書いてくださった一文です(書いていただいたのは1980年代半ばだったかと思います)。藤牧教授は、ある勉強会の講師に招かれた際、東西ドイツの壁が早晩無くなると言われ、実際にその通りになりました。教授は、インターネットの専門家ではありませんが、歴史から学んだことをベースに、つまり原理原則に照らしてみると、インターネットでこういうものなのでは?というところを聞かせてくれました。


 

[特別寄稿] ある三題噺−ローマ法皇・フランス大統領・渡り鳥

東海大学名誉教授 藤牧 新平 (国際政治)

■グレゴリオ16世と鉄道
 イタリアに鉄道が敷かれるようになったのは、19世紀の30年代以降の事だが、その当時のローマ法皇グレゴリオ16世は、鉄道は、商品よりむしろ思想を運ぶものだと評して、この新しい文明の利器に対する警戒の念を隠さなかった。彼が思想という時、それは、武装蜂起によってイタリアの統一を求めるマッチーニなどの「若きイタリア」という名の運動も入っていたに違いない。たしかに、鉄道は、モノだけではなくヒトも運ぶものだが、そのヒトは、必ず一定の思想を持っているのだから、鉄道によって、思想が運ばれることを恐れたローマ法皇は、事態の本質 − 人間の運搬手段が数千年続いた牛馬から鉄道に変わったという巨大な変革の意義 − を、本能的に予感していたといえよう。

■ミッテラン大統領とインターネット
 新聞報道によると、ミッテラン・仏大統領の主治医が、同大統領の死後間もなく回想録を出版し、その中で、彼がガンにかかっていることを「国家秘密」として、公表することを禁じ、在任期間の末期に至るまで、10年以上、国民には健康だといつわっていたという事実を暴露した。この本が出版されると、ミッテランの家族が、出版差し止めの訴訟を起し、裁判所は、その訴えを認めたが、それまでに、すでに4万部が売られていた。おまけに、フランスの地方都市ブザンソンにあるインターネット・カフェの主人が、この本をインターネットに載せたので、世界中の人が、この本を読めるようになった。現行法では、発禁措置は、出版社に適用されるだけで、全くの第三者がインターネットに流すのは取り締まりようがなく、この喫茶店の主人が逮捕されたのは、この事件には関係のない、彼自身の別件を理由とするものだった。この話は、インターネットが、国境を超えることを示すほんの一例に過ぎない。

■渡り鳥と人間
 もともと、国境という垣根は、人間が勝手に地球上に線を引いたもので、こういう邪魔物は、渡り鳥には全く関係がないから、彼等は、その種族保存の本能に従って、季節毎に、地球上を、自由に、旅券も持たずに移動する。この渡り鳥を保護しようと思えば、人間は、国際条約などという面倒な取り決めを結ばなければならない。そういうややこしいこことになったのは、現代の人間社会が、国家によって分割されているからであって、渡り鳥のせいではない。しかも、渡り鳥に対しては、こんなに心優しく気をつかう人間が、カンジンの自分自身に対しては、今なお、全人類を何回か絶滅し得る程の核兵器を抱えて、国家間で睨み合っているのは、どうした事か。渡り鳥から、私たちの保護条約は結構だが、あなた方人類の保護条約を作ったらどうですか、とからかわれても、仕方あるまい。渡り鳥からのこういう皮肉な質問に対するわれわれの答えは、先ず、この国境という垣根を低くすることから始めなければならないが、それには、インターネットという道具は、役に立つかも知れない。

 ただ、この道具は、エロ、グロ、ナンセンスを世界中に大量にバラまく凶器となり得るし、現にそうなっている。そうならないようにするのは、一にかかって、この道具を使いこなす人間の知恵にある。渡り鳥条約まで作った知恵が、やがて核兵器をなくし、国境を取り払うという地点まで、無事に人類を導くことができるかどうか・・・・インターネットを使いながら、われわれが、常に心に刻んでおかねばならなぬ問いは、これである。


(上記の全体、もしくはその一部を、許可なく転載することを禁じます)


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